2007-02-23

老女と息子


いつもの帰り道でのことだ。一人の老女が路肩に車を止め、まっすぐ前を見て佇んでいる。別段何もないところなので始めは何をしているのだろうと不思議に思ったが、そうだ思い出した、そこは養護施設へ通う送迎バスの待合場所だったはずだ。日によっては朝にその老女と思しき人がダウン症であろう息子を連れて待っているのを見かけることがある。その息子はいつも携帯(普通電話の子機のようだが)を耳に当て、しきりと何かを話しているのだ。話している振りをしている訳じゃない、明らかに誰かと話しているのだ。その傍らで老女が今日と同じ表情をして佇んでいた。
息子を迎えるため強風のなか車から出て道路脇に立っていたのだろうが、その視線はバスが来る方角を見ず、無表情にまっすぐ正面を見つめていた。自分はその前を一瞬車で通り抜けたに過ぎないが、老女の表情はあまりにも多くのことを語っていた。その後今に至るまで繰り返し老女は現れ、何かを語るのだ。

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