2008-10-07

緒方拳、逝く


あれは僕が二十歳のときだったと思う。その頃僕は写真学校に通い、自分の作品作りに没頭していた。そんな時学校の近くの百貨店で緒形拳のシルクロードシリーズの個展が開かれると聞いた。学校の授業の一環として『復讐するは我にあり』や『楢山節孝』を観て、この俳優は凄いな・・と思っていた時期でもあり、作品制作を早めに切り上げて個展を見に行ったのだ。そして彼の個展を見ている時、なぜそう思ったのか今でも分からないが、急に自分の作品を緒形拳に見て欲しいと思い始め、だんだん呼吸も速くなり緊張感が高まって、こうなったらダメもとでぶつかってやろうと、たまたまその日来館していた彼に『写真を撮っている者だが作品を見てもらえないだろうか』と面会を求め、マネージャーか誰かが『今は忙しいので・・』と断ろうとしたのを彼が制止して『どれ、見せて下さい』と僕の作品にひと通り目を通し、舞い上がってしまっていた僕に『いいですね、頑張って下さい。また会いましょう』と声を掛けてくれた。
彼に自分の作品を見せてどうにかなるとは思っていなかった。彼の批評が欲しいとも考えなかった。ただ単に彼に自分の作品を見てもらいたい。それだけを望んでいた。それは何の根拠もない思い込みだったのは確かだが、その時の僕には欠かせない行動だったに違いない。

そんな懐かしいことも今朝のニュースで彼の訃報を聞くまではすっかり忘れており、今思い出しながらその頃の自分の野心に満ちた無鉄砲さに『ほんとにあれは自分だったのか?』という違和感を感じ、変に落ち着いてしまっている今の自分に対しては物足りなさを感じてならない。

アクの強かった個性的な俳優の死に  黙祷

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