2012-12-11

虚空界














日曜夜のNHKスペシャルでは登山家の竹内洋岳さんが、ダウラギリ登頂に挑むドキュメンタリーをやっていた。そう、我が友山本君が2年前に大雪崩によって行方不明となったあのダウラギリだ。僕はこのドキュメンタリーがやっていることを知らず、たまたまTVをつけたら『おや、これは・・』と、なんだか急に胸がドキドキして来て、しばらくしてからやっと竹内さんがアタックしているのが『ダウラギリ』ということを知って、何とも言えない気持になってしまった。まさに竹内さんが足を踏みしめて登っているその下に彼、山本君は眠っているのだ・・。ドキュメンタリーの中では竹内さんが遭難した3人の名前を挙げて祈りを捧げるシーンもあったが、遭難現場はどこまでも白く、そして空は寒々しいまでの蒼さだった。
今回の竹内さんのダウラギリ制覇の様子と、彼のコメントから僕はなぜ山本君がこの山を目指したのか?その一部が分かったような気がした。標高7000mを越える『死の領域』デス・ゾーンを目指す登山家達は決して冒険などしない。そこにあるのはストイックなまでの自分自身との闘いと、生命を拒絶する『死の領域』によって暴かれた、おのれの感覚だけの世界だ。おそらく一度『死の領域』に足を踏み入れた者は、もはやその呪縛から逃れられないのではないか?とさえ感じてしまう。それほどまでにそこには『何も無い』のだ。『無』に見入られた者は『無』を求めずにはいられない。
我ら俗世に生きる者にとって、そこはあまりにも神々しく、そして無なのだ。

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